現在弊社では採用活動を行っている真っ最中です。実のところ、採用活動それ自体は常に行っているものです。弊社への入社について興味をもって問い合わせしてきてくれるような人とは、よほどのことがない限りお会いするようにしています。今は特にその積極性を高めているというだけです。
私が就職活動をしていた20年近く前と今とを比較すると、社会的に「働く」ということに対しての価値観が大きく変遷してきていることを強く実感します。私だけかもしれませんが、昔は募集要項なんて重要項目じゃなく、書いてあることが現実では当たり前に覆されていたように思います。私は休日数なんて就職活動の場面で疑問に思ったこともなかったし、そもそも興味すらありませんでした。残業時間についても同じです。皆一様に9時〜5時って募集要項に書いてあったと思いますが、それは「公然のウソ」だということは常識のようなものだと思っていました。そして、私も被雇用者の立場においてもそれで問題ないとすら考えていました。でも今はそんな考えは過去の遺物です。採用活動を支援してくれる企業からは、「年間休日数を増やしたほうがいい」や「残業時間の詳細情報を開示したほうがいい」などという指導は一般的なものとなりました。
普段の業務の中においては、社内のことや営業活動などが主となるので、自らの「普通」と社会の「普通」とが同じもののように錯覚してしまっているように思います。だからこそ、時折この採用活動を通して社会との「ズレ」を認識するということは重要だと考えています。昨今はその「ズレ」がだんだん大きくなって来てしまっている状況です。私たちもどんどん時代の変化に合わせていかないとならないという危機感を強く持っています。
もちろん偏りはあるものの、弊社の残業時間の水準は業界水準から比べて非常に少ない部類に位置で来ているという自負はあります。また、産休、育休など子育て世代を下支えする制度も一定程度整備できているものと思います。目下一番改善の必要を感じているのは「休日数」です。適切な休日数は従業員の満足度を高めるだけでなく、彼らがリフレッシュし、より能率的に仕事を行えるための基盤を作るのにとても重要なものです。この点はつい数年前までの不動産業界の中では比較的多い方だったと自負しておりました。しかし今現在となってはむしろ後れを取ってしまっています。
以前からこの休暇数を増加させるために、ゴールデンウィークや夏季休業などの長期休暇の期間を増やすということを試みとして行っていました。長い時では全社一律で10日以上の休暇を設定していたこともあります。しかし、この長期休暇の増加ということに関しては行き詰まり感が出てきています。ひと月にまとめて10日近くも業務停止していると、お客様にも関係企業様にも多大なご不便とご迷惑をおかけしてしまいます。そして、その状況を「休みすぎ」という表現で憂慮する社員も出てきています。
この状況を放置することはもはやできないので、今年から個人の取得できる休みを増やしながら、企業活動を継続向上する為に新たな休暇取得にチャレンジし始めました。社全体の休業日数は大幅に減らし、別途シフト制で個人が休暇取得するという形態です。決して珍しいものではくいたって普通なものですが、弊社にとっては新たな取り組みです。休暇の質や社員の自己実現も高めながら、同時に顧客対応満足も高めていく、という前提において、ちゃんとやろうとすると難易度の高いチャレンジです。大企業にとっては至極一般的な話なのでしょうけれど、中小企業が圧倒的に多数を占める不動産業界の中で成し遂げている企業はそう多くないように感じています。弊社にとっては「四方よし」を掲げている以上、成し遂げて当然ともいえる取り組みです。
業務が個人に依存していたアナログな業務フローの中では、結局このシフト制を採用したとしても、休暇中の社員が休日返上で対応することを余儀なくされてしまいます。いわゆる「つながらない権利」というものが存在しない状況です。そして、もし担当者がつながらなかったとしたら、代理対応する社員にとって過度な業務負荷を発生させるということになってしまい、これまた社員の精神衛生上非常によろしくありません。そのような状況の中でこれ以上の休暇数増加は「休みすぎ」と称されてもしょうがないです。そもそも弊社が全社的な長期休暇を設定していたのは、社員の休暇の質や社員の精神衛生を守る為でした。業務の引継ぎが難しいなかで、負担の偏りをなくすために、全体で休むということを選ばざるを得ない状況でした。
社員満足と顧客満足の両立のための「カギ」になるのは業務情報の共有としています。そして、個人に依存した業務フローからの脱却です。その人でないとわからないという情報や業務をどれだけ減らすか。しばしば耳にするフレーズの「担当者が休みなのでわかりません」という回答をなるべく減らしたいと考えています。これがなかなか大変な取り組みです。営業だったら活動情報を全部記録に残したりとか。私自身、過去の一営業担当者としてはロクに顧客情報の管理などできていなかったと思います。自分一人で完結している業務なら、正直に言えば対応履歴など情報として残しておく必要はありません。するとこういう意味を感じない業務を行うという負担はないので、結局は自分一人でやったほうが早いっていうことになってしまいます。
確かに、早くやりたいなら一人でやったほうがいい。お客様に提供する質もスピードもその方がいいことが多い。経験豊富な担当者であればなおさらです。けれど、個別では正しくとも、全体として正しくないということはしばしば発生します。「合成の誤謬」とかって言われたりしています。例えば、個人の節約は個人としての経済活動としては正しいけど、全体として節約が進めば経済は鈍化してしまうので誤った行動、といったようなものでしょうか。組織全体で、そして長い時間軸で見れば、「個人で業務を素早く完結させる」ことは必ずしも正しいことではないとも言えます。
個人主義は良くも悪くも、スピード感はすべて個人のスケジュールに連動してしまいます。休めば止まるし、けがや病気をしてしまえば完全にストップしてしまいます。特定の誰かが特別に頑張ることで達成するというのは目標とすべきではなく、全社的な枠組みで課題解決していかなければ、結局は持続可能なモデルではありません。より継続性をもって取り組むのであれば、より多くの人と一緒にやるべきです。そして複数人で業務を共有するからこそ、高技能者の持つ知見がその他に共有されて全体のサービスレベルは向上いくことになります。こういう取り組みが結果として、より多くのお客様の、より大きな喜びにつながるはずです。
HP上でも謳っている「住まいのプロフェッショナル」というのは決して個人に限定した話ではなく、会社全体としてそれを成し遂げることを期待しての言葉です。一見遠回りなようでも、なるべく一人ではなく業務を共有しながら進めていきたいと思います。そして、チームの仲間を頼り、休む時は休む、働くときはチームの仲間の分も含めて働く。そして良いも悪いも、課題をみんなで共有し、改善していく。すごく当たり前なことなのですが、私たちにとって、こういうことが今改めて必要になってきています。私自身がそうだったと感じているんですが、不動産業って、個人のプライベートの人生経験が個人の業務の質に影響するところが大きいものです。業務の質が上がれば、顧客満足は高まり、それが重なることで地域貢献にもつながっていく、、、そんなイメージを理想としています。一番最初に取り組むべき社員と顧客、両方の最大化へのチャレンジを続けていきます。チャレンジの結果、どういう問題が出るのか、出ないのか。新しい取り組みって良いこともあれば、悪いことも出てくる。一部の人への負担が増えてしまったり偏りが出てしまうことだって出てくるはずです。しかし悪いことがありそうだからやらないということであれば、新たなチャレンジは何もできなくなってしまいます。トライ&エラーを繰り返し、着実に改善していくしかないです。